Monday, August 15, 2016

サンティアゴ巡礼路 「歩くだけという、 究極にシンプルな旅」  


聖地サンティアゴへの巡礼。最古の記録は951年にも遡り、世界で初めて出版された旅行ガイドブックは「サンティアゴ巡礼案内」だったとされる。大ブームが起こった最盛期の12世紀には年間50万人が挑戦した記録があるそうだ。

1993年には、この巡礼路がユネスコ世界遺産に登録され、一度は廃れた巡礼路を再整備するキッカケとなった。東洋にはヨガなど、体を使った教えがある。それと似た様なモノは西洋にはないかと探していた時に、 女優シャーリー・マクレーンの著書「カミーノ」を読み、その存在を知った。その後すぐにパウロ・コエーリョの「星の巡礼」を読破。周りに経験者がいなく、巡礼の話を誰かに聞くこともできず、情報といえば、たった二冊の本しかなかったものの、旅情をかきたてられるには十分すぎる理由が揃った。


そして2004年の夏、意を決しすべての予定をキャンセルして断行。7月末の満月の日の早朝、スペインとの国境に近い、フランス、バスク地方の街サン・ジャン・ピエ・ドゥ・ポ ーを出発した。バックパックを背負い、カメラを携え、巡礼の証であるホタテ貝を身に着け聖地を目指し歩いた。


ピレネー山脈を越え、約1カ月掛け北スペイン約800kmを横断。巡礼中は高揚して、急に至福感に襲われたり泣きたくなる衝動を感じたりした。山では夏だというのに息が白くなるほど寒く、平野ではスペインの太陽に焼かれ脱水症状で倒れそうにもなった。この旅で初めて、カメラがこんなに重いものだという事を思い知った。道中には巡礼で命を落とした人々の墓碑が数多くあり、そのひとつに日本人のものがあったのが忘れられない。私は旅の最中、日本仏教の聖地である高野山の線香を毎日焚き、自分なりの祈りを表現し続けた。


大聖堂に到着できれば、さして難しいルールもなく、「歩くだけという、究極にシンプルな旅」。宇宙や地球に比べればあまりにも小さい自分が、万物とつながっている一体感。街で暮らす日常からは想像しえない感触を得ることができた。


スペイン北西にある聖地サンティアゴ・コンポステーラに到着した時は、その到達感の喜びもひとしおだったものの、巡礼の答えは、その道中ですでに見つけていた。巡礼を通し、聖なる存在は教会だけではなく、自然の中にもいることを実感し、到着前にすでに満たされた気分になっていたのだ。


巡礼中、ずっと自分につきっきりでいてくれる見えない存在を感じた。私はその存在を守護天使と呼び、ぶっ飛んだ対話を楽しんだ。もちろん、歩き疲れで、気が触れていただけなのかもしれない。ただ、その充実感はひれ伏したいほどに確かなものだったのだ。




Day 1 最初の難関ピレネー山脈。フランスとスペインの国境に十字架が。


Day 2 教会内に設けられた巡礼者専用のベットルーム。満員の日は寝袋で床に寝る。


Day 9 道中、様々なマリア像に出会う。信仰深い巡礼者は静かに祈りを捧げていた。


Day 14 巡礼の中盤は、緩い高低差がある平野。黄金色の麦畑が続く。


Day 15 同じようなリズムで歩く巡礼者とは仲間になる。
彼らの笑顔は旅の励ましとなった。
宗教的な理由での巡礼者はむしろ少数で、多くは夏の冒険として楽しむ。


Day 16 巡礼中は黄色い矢印に沿って歩く。この先には目的地の大聖堂がある。

Day 21 友人たちと語らいながらの巡礼も楽しいだろう。
ただ、不思議と一人で歩く静けさで、孤独を感じる事はない。


Day 28 聖地近くの森の中で、神々しい光彩の写真が撮れた。


Day 30 旅の終着点、サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂。
カトリック三大巡礼地の一つとされる。

The Last Day 大聖堂内の巡礼達。それぞれの思いが交差している。
むせび泣く人の姿も見かけた。


雑誌「ローリングストーン日本版」2009年3月号に掲載したフォトエッセーを、加筆転載させた頂きました。