Wednesday, January 10, 2018

絵本の魔力





新米パパになって不安がる僕に、友人からメッセージが来た。「いいパパにならなくていいから、絵本を読んであげられるパパになってね」。ミラノ在住の僕たち夫婦の会話はイタリア語、たまに英語。 妻は母国語のロシア語で赤ちゃんに話しかけ、僕は日本語での一人芝居に限界を感じていた。国際性に憧れた僕だが、家庭内の多言語環境に困惑し、日本語を教えることにも自信をなくしていたのだ 。な るほど、日本語の絵本なら言葉も教えられるだろうし、最高のアド バイス。 

北イタリア日本人会では毎週、読み聞かせの会もしているそうだ。 そして、彼らの日本語絵本のコレクションの大半は 、児童書の世界では世界随一の規模を誇る「ボローニャ国際児童図書見本市」からの寄贈とのこと。この見本市のなかでも、とく に新人を発掘する原画展(注記参照)は3 0年以上にわたり日本の板橋区立美術館と深い関係があり、日本国内でも巡回展が行われるそう。と聞けば、新米パパはぜひ覗いてみたくなる。写真家というのをいいこと に、関係者限定と言われている見本市に入れてもらえることになり、4月、ボロー ニャに向かった。 

会場内は、まさに絵本の玉手箱。興味深く感じたのは、絵本の主役は無国籍な顔をした子どもが多いところだ。どこの出身かわからないボーダーレスな顔の絵に愛着を感じる。とはいえ、注意深く見ると違いもある。子どもを意識して明快で わかりやすい日本の絵本。素朴で生活感あふれるアフリカの絵本。 教え解くようなアラビアの絵本。電気仕掛けで声が出る中国の絵本。 色調が暗いのに温もりを感じる東欧の絵本。大人っぽくオシャレな西欧の絵本。国際的な比較にワクワクして、 それぞれに惹かれた。むしろ言語に関係なく、素敵な絵本は文句なしにいい! 

結局、その日は動物がテーマのイタリア語の絵本を購入して帰ってきた 。手はじめとして、即興で日本語に訳したり、話を勝手に アレンジしたりして読み聞かせてみた。息子の反応もまあまあで、 順調なすべり出しだ。「日本語も大切だけど、それより文化の多様 性を尊ぶ気持ちとか、心の余裕を育んでほしいなあ」。ボローニャ の絵本たちの魔力のおかげか、日本語教育のプレッシャーに負けそうだった新米パパは、一転して子育てに達観しつつある。 










ANAグループ機内誌「翼の王国」9月号より、加筆転載させていただきました。

  



注記:イタリア・ボローニャ国際絵本原画展は、板橋区立美術館の他、西宮市大谷記念美術館、石川県七尾美術館、高浜市やきものの里かわら美術館などを毎年巡回しています。元来、絵本の原稿でしかなかった原画に注目して、それを芸術の域に高めたのは、彼ら日本の美術館のキュレター達だそう。児童書の国際的な商談がメインであるボローニャの見本市ですが、原画展も重要な位置を占め、絵本作家の登竜門的なコンクールとなっています。審査員は毎年総入れ替え、受賞者は若い作家から、プロのデザイナー、美術学校の先生まで、世界中から絵本制作を目指してイラストレーションの腕をふるっていて、とても見ごたえがありました。

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